IT投資目的の比較(日本・米国・韓国)
IT投資目的の比較(日本・米国・韓国)
この調査は、世界30カ国の国別の「IT投資意欲」の調査と同時に行われたものと思われますので、ここでの「IT投資目的」は現在「IT投資意欲」がある企業の「IT投資目的」であると考えてよろしいかと思います。
そうしてみると、私には実に顕著な背景が透けて見えてまいります。この「IT投資目的」は、日本、米国、韓国の3カ国の比較ですが、日本の企業経営者は米国、韓国の企業経営者とはIT投資に対して異なる目的を求めていることがわかります。しかし、その目的は、多分40年前にも日本の企業経営者は同じ目的でIT投資を行っており、この「IT革命」と言われている時代にも40年前と経営者のITに対する意識は何も変わっていないのでは無いか、と思わせるものです。
1)日本は、未だに「間接コスト削減」がIT投資目的のトップ
日本の企業は3,40年前の1970年代にはオフィスコンピュータが登場してきたことから中小企業もコンピュータを導入し、事務処理のIT化、すなわち間接人件費を抑制して間接コストの削減を図ろうと、日本企業全体がIT化を急速に進めていきました。それから、40年ほど経って、既に間接コストの削減には成功?しているはずなのですが、未だに「間接コストの削減」なのでしょうか?
この理由には多くの企業の「IT化ステージ」が第2ステージ(部門内最適化)に停滞していることに大きく影響していると考えられます。
2)「攻めの経営」へのIT投資不足
米国と韓国が現在、どの分野にIT投資を行っているかを見ると、両国共に「顧客満足度の向上」がトップで、その後品質向上、高付加価値化、直接コスト削減、新規顧客の獲得と続きます。これらの課題に共通して言えるのは、「攻めの経営」のためにビジネス競争力を向上させることが目的になっているということです。そして、このIT投資目的の違いが、今の日本企業の「IT投資意欲」が世界の主要国で最下位である最大要因になっているのでは無いかと推測しております。
要は、「ITは事務作業の省力化の道具」であり、当社は、既に会計や給与計算、販売管理等のIT化は実施済であるから、特にIT投資を必要とする要件は無い、という考え方です。今の時代に企業経営者がこのような考えから脱却できていないとは思いたくありませんが、現実、企業を訪問し、このような調査結果を見ると、納得せざるを得ません。
顧みるに、第2ステージに甘んじている企業は、未だにITへの投資効果が見えず、3,40年前と余り変わらないレベルに甘んじているのではないか、ということです。かなり過激な発言だと思いますが、しかし、これが、多くの企業の現実であると思います。
3)これからのIT投資
ITが、単なる省力化の道具からビジネス競争力を高め、経営戦略の道具となっていることは明白です。
しかし、現実には経営戦略の道具として活用できている企業はまだまだ少数である、というのが日本の実態です。日本経済の強みは、豊富で優秀な技術を持った中小企業群であると考えております。実際、自動車産業等の裾野を形成している優秀な中小の部品加工業の存在がなかったら、今の日本の自動車産業はあり得なかったでしょう。しかし、自動車産業を支えているジャストインタイムも下請けの企業にとっては過剰在庫を持って、ふうふう言いながら対応している「やっかいなもの」というのが実状です。ジャストインタイムは、川上から川下までが一貫したSCM(サプライチェーンマネジメント)システムを構築してこそ全ての下請け企業も恩恵を受けることができるものです。しかし、WEBから受注情報がダウンロードできても、そのデータを時系列的に分析して自社の仕入、生産計画に反映させ、最適在庫をコントロールするようなデータの生かし方ができている中小企業は、私の回りではほとんど見かけません。
一方で、部品加工業の中小企業がIT化を推進したいと思っても、数社ある顧客企業との受発注システムがバラバラなため、共通して対応できるシステムを導入するのが大変困難になっています。ある企業はWEBから注文が来る、ある企業は手書きの専用伝票での納品を義務づけられ、また電話やFAXで注文が来る顧客には市販の販売管理システムで対応する。ある訪問した中小企業では、主力5顧客先が全て異なる納品システムを要求しているため、それぞれに別のシステムを導入、大変なコストと労力をかけさせられていました。
私どもITコーディネータは、中小企業の戦略的IT化を推進することを目的としていますが、現実的には、中小企業に注文を出す中堅企業自身のIT化が大変遅れており、また業界としての標準化が遅れているために、各々が足の引っ張り合いとなり戦略的なIT活用を阻害しているというのが実状です。
中小企業にも、WEBサイトを効果的に活用して売上を伸ばしているような戦略的なIT活用に成功している企業もありますが、これらは戦略的IT活用の点から見れば一部のことでしかなく、重要なのは、日本の産業全体で物の売り買いを制御する仕組みを統一的に管理できるシステムが、今一番必要とされているのでは無いかと考えています。
現在、部品加工業でも卸売業でも、下請的な中小企業が総合的な情報システムを構築しようとすると、顧客企業に対するバラバラなシステム対応がネッグとなり、効率的なIT投資の弊害になっています。
このような状況から、中小企業の今後のIT投資は、できる限り自社のみで行わず、業界、地域で標準化したシステム作りを前提に検討すべきと考えています。このためには、互いに競合しつつも、呉越同舟、業界、地域で連携することが求められており、IT化もこの延長線上にあると確信しております。